第27回 ナイル株式会社 土居健太郎さん
【プロフィール】
採用人事の業務歴:約13年
担当業務:採用(中途、新卒)、O&TD(組織開発、人材開発など)、HRBP、労務、総務、広報、ブランド&カルチャー
ナイル株式会社は2007年に創立した企業で、「デジタル革命で社会を良くする事業家集団」をビジョンに掲げ、SEOやコンテンツマーケティングを基軸としたデジタルマーケティング事業、アプリ情報メディア「Appliv」などを運営するメディアテクノロジー事業、自動車のサブスクリプションサービス「おトクにマイカー 定額カルモくん」を提供する自動車産業DX事業を行う。
土居さんは、2009年に入社。2010年から事業部長としてデジタルマーケティング事業の立ち上げを担う。2015年、取締役に就任。2019年からは人事本部本部長を兼務し、人事責任者として採用と組織開発を担当する。
採用人事の担当者におすすめしたい3冊は?
◆『GIANT KILLING』
(ツジトモ著、綱本将也原案/講談社)
2007年から連載されているフットボール(サッカー)漫画で、2010年にはテレビアニメ化もされました。元スター選手の達海猛が、弱小プロサッカークラブの監督として就任し、強豪チームを相手に勝利する「ジャイアント・キリング(大番狂わせ)」を行う物語です。
この漫画は、メディア事業部へ異動したころに読み、マネジメントについて勉強するきっかけとなりました。私はそれまで全体を仕切る立場でありながらプレイングマネジャー(チームの一員として現場に立ちながら、部下もまとめる)のスタイルで業務にあたっていたのですが、環境が大きく変化したことで従来のマネジメントスタイルではうまくいかず、考え方と仕事の仕方を変える必要性を感じていたのです。
作中のシーンでは、キャプテンの村越という選手に対し、達海が言ったセリフ「チーム事情……/チームのバランス……/戦術/そんなもんまでお前が背負いこむ必要はねえ/俺に言わせりゃ……/お前はただ……/いい監督にめぐまれなかっただけだ」(6話)が印象的です。やる気があってオーナーシップが高く、聞き分けのいい部下に都合よく責任を押し付けるのはやめるべきだと思いました。
また、部下であるマネジャーが自分のチームのマネジメントにつまずき、「チームメンバーが他責の姿勢になっていて困る」などと弱音を吐いているときには、、「他人のせいにしているという点で、今のあなたと何が違うのでしょうか」と問いかけを返せるようにもなりました。
◆『マネジャーの最も大切な仕事 95%の人が見過ごす「小さな進捗」の力』
(テレサ・アマビール、スティーブン・クレイマー著、中竹竜二監訳、樋口武志訳/英治出版)
マネジメントを勉強しようと初めて手にした本で、とても印象に残っています。ハーバード・ビジネススクール教授のテレサ・アマビールと心理学者のスティーブン・クレイマーが、35年間の研究で解明したマネジャーの「進捗の法則」が書かれています。
内容は、「やりがいのある仕事が進捗するよう支援する」ことでチームやメンバーの創造性と生産性が高まる、というものです。社員のモチベーションやエンゲージメントを高めたいという思いは、どこの企業も同じでしょう。この本は、何をコントロールして何をマネジメントすれば結果に繋がるのかを考えるきっかけになります。
この本を読んだことで、あれこれ考える前にまずはみんなが仕事に集中できる環境を整えよう、と思えるようになりました。業務の成果と直接関係のない悩みや不満が社内に増えてきたときには、「本来の仕事ではない要素にメンバーのエネルギーを割いてしまっている」と考えるようになり、できる限り原因を見つけて対処するようにしています。
◆『アオアシ』
(小林有吾著/小学館)
2015年から連載を開始したサッカー漫画で、2022年にテレビアニメ化されました。公立中学校のサッカー部でFWを担う青井葦人が、Jリーグのユースチームに入団して活躍する物語です。何度も読み返しており、3周目くらいからは、人材開発やチームビルディングの観点から読むようになりました。選抜、育成、抜てき、配置などの考え方を整理するきっかけとなった一冊です。
この漫画を読むと、成果を出すためのフレームワークである「Will-Can-Must」のバランス感覚についてよく考えさせられます。
例えば、ある社員にCan(できること)とMust(やるべきこと)を度外視してWill(やりたいこと)を優先して業務に取り組んでもらった場合、結果的に本人は「社としての重要な成果に貢献できず、やりたいことをやっても評価されない」という思いを持つかもしれません。それは、本人の意思を尊重した結果としても不本意です。
一方、Can&MustをWillよりも優先する場合、必ずしも本人の意思や将来を蔑ろにするとは限らず、成果を出してチームからの信用を積み上げた先に、本人の強みを最大限活かした新たなWillが芽生えることも多々あります。
そうした結果を目指して、社員それぞれが最大限活きる場をアサインできると、人事の管理職として格好いいなと常々思い描いています。
【自社での取り組み紹介】選ばれる会社になるためには、どうしたらいいか
当社の採用では、新卒や中途入社、業務委託などさまざまな働き方で新しいメンバーを募集しています。そのベースとなる採用基準は職種関係なく設けており、マネジャー以上の担当者に資料として配布しています。一方、個別のポジションごとの適性判断については、構造化面接(応募者全員に同じ質問をし、基準に従って回答を評価する)の手法を一部取り入れています。
しかし、個々の選考評価がどこまで正確にできるかというと、「人間が行う評価なので正しさは保証できない」ことが前提ではないでしょうか。
ですから、面接回数を増やす、一般の選考面談に加えて適性検査、ワークサンプルテスト、構造化面接などで多面的に評価する、面接官の評価フォーマットを統一するといった施策で評価のズレを調整しています。
また、審議機関として採用委員会(選考関係者・人事・役員を交え、選考評価が妥当であるか、オファー条件やミッションが適正範囲内であるかなどを吟味する場)を週に2回開催して採用承認を行います。これらは、「候補者を厳しく評価する」目的ではなく、「選考評価や入社後の期待値をより適正な内容に近づける」ための努力です。
採用人事に関わっていると、成功よりも苦労のほうが多く、「良い人材かどうか確かめる方法」以前に「良い人材に入社したいと思ってもらえる方法」を探さなければ、いかに優れた基準を設けたところで良い人材を獲得できない時代になってきたように感じます。ですから、どういう人を採用したいか、その人に選ばれる会社になるにはどうしたらいいか、の両面で考えると良いのではないでしょうか。
TEXT:ゆきどっぐ
EDITING:Indeed Japan +ノオト